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2016-10-31

天国への旅支度

長い間暮らした養護老人ホームに別れを告げる間もなく
もう常連ともいうべき急性期病院のベッドで
体中チューブに繋がれてしまった

看護師さんの好き嫌いを言っては
「もう帰りたい」と
子供のようにダダをこね

注射の痛みに堪えかねて
「もう死なせてほしい」と訴え

ついこの間まで私を困らせていたあなたが
転院をしてから急に静かになってしまった

食べることが大好きだったあなたは
鎖骨の下の静脈に刺さった管を通して栄養補給をしている
おしゃれが大好きだったあなたの身にまとうものはただ
酸素マスクとパジャマだけになった

「私が分かる?」とたずねると
ゆっくりとうつろな瞳を向け、わずかにうなずく
手を握って額を撫でてあげるとまた
すうっと眠ってしまう

何もしてやれない
何もしてやれなかった・・・

今朝夫が言った
「お義母さんが歩けるようになって、みんなで喜んでいる夢を見たよ」

あなたはずっと待っていたんだね
私たちがやって来るのを

長い間疎遠になっていた私と兄弟姉妹と
また昔のようにやわらかな言葉を交わす時間を
赦し合い癒し合う時間を

ありがとう
ごめんなさい
ゆるしてください
愛しています

ありがとう
ごめんなさい
ゆるしてください
愛しています

ありがとう
ごめんなさい
ゆるしてください
愛しています

愛しています
愛しています
愛しています

神様、どうかこの声が母に届きますように。
そしてもうこれ以上、苦しみませんように・・・

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