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2016-05-29

夕暮れのキセキ

真っ赤な夕陽と金の雲がたなびく美しい夕暮れ。
心地よい風を感じながら車を走らせていると
何かいつもと違う感覚を覚えた
目に映るすべてのものが
カメラのファインダーを覗きながら
シャッターを切っているような
すべてが鮮やかに凝縮されて時が止ったみたいだった。

羽を拡げて舞い上がる鳥
しゃぼん玉を吹く子ども
カートを押す老人
黙々と走り去るジョガー
配達をする運転手の横顔
坂道を駆け上がる自転車の主婦
子どもを抱く母親
手を繋ぎ微笑む恋人たち

この瞬間を夢中で生きている人々の
なんと美しいことだろう

日常のさりげなくも二度とない風景を窓越しに見ながら
本当はこんなにも愛おしくかけがえのない瞬間こそがキセキだとしたら?
そしてそのキセキの集まりが私たちのすべてだとしたら?
ふと、そんなふうに思ったらたちまち涙があふれてきた

このハンドルを握って辿り着く先に私の在処があり
白髪まじりの子どもみたいな連れ合いと
飽きもせず同じ屋根の下で
泣いたり笑ったりしているさもない毎日が
たまらなく愛おしく思えてきて
泣きながらハンドルを握りしめた

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